立会人以外はもどしの儀式は見てはいけないことになっています。おやじ様が出稼ぎで出ている場合は、「もどし」のためにわざわざ帰ってこなくてはなりません。
また今では和尚さんが「お宅の納戸神様の行事はすみましたか」と念を押してから、仏式の葬儀を行っています。
鳥山…まず、もどしの前にカゼ離しをします。カゼは悪霊で、付いていると天国へ行けないのでサンジュワン様(聖水)とおテンペンシア(縄の鞭)で払ってやるのです。二人がかりで一時間半かかります。その儀式が済むまで死者は生きている人として扱います。その後のもどしの時にはお水をかけながら「アニマに戻してください」と祈ります。もどしまでが終わって初めてアニマになるのです。
中園…隠れキリシタンのもどしは特に重要な儀式で、これをエレンジャモンという信者以外の人が見ると、死んだ人は先祖のところに行けなくなるそうです。また、行事の時はおやじ様がエレンジャモンと口をきいてはいけないとも言います。
鳥山…私の父の時代には、亡くなった人の着物を御前様の祭壇に預けました。そして「だんあげ」(初七日)の時に引き取りに来ていました。
谷川…年中行事をうかがいたいのですが。お祭りの中で盛大な行事はなんですか。
◎隠れキリシタンの行事◎
鳥山…一番大きい祭りは、旧三月四日に「おせじょまつり」といって二年に一度行います。以前は特別にお宿を設けて、上中下の三つのツモトがそれぞれの御前様をお移ししてお祀りし、信者の方もたくさんお参りに来ていました。今は御堂の方でやっています。
田淵…元旦はカキウチの家々すべてが御参詣にいきますから、卸参詣ということであれば元日がもしれません。他では「土用中様」といって土用の中日に御前様の虫干をしたあと行事をします。また「野祓い」といい、道の辻や溜池、野原の大きな石など、魔物がいて危険と言われている場所でお祓いをします。
谷川…「野祓い」は何人ぐらいでやるのですか。
田淵…おやじ様、隠居おやじ様、おじ様、隠居おじ様、それに役中の十二人程でやります。
鳥山…堺目では以前は一月六日に「野祓い」をやっていましたが、今はなくなっています。また前日の五日に「家祓い」があり、これは今もおこなわれていて、カキウチの全戸をまわりお祓いをします。
谷川…「あがり」は灰の水曜日にあたる復活祭ですね。いつに行いますか。
中園…「あがり」は「入り」から四六日と言われており、だいたい三月末頃になりま
右・身の祓い。子供の健康を祈願してもらう[堺目・家祓い、一月]
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